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2009.04.30

おかしらがジェネレーションギャップを感じる瞬間|金子郁容(政策・メディア研究科委員長)

ジェンダー論や女性学で著名な上野千鶴子さんは、私にとって、同じジェネレーションの数少ない「親しいお友達」のひとりだ。上野さんは、ジュリーと誕生日が同じだと自慢している。あれ、今の学生はジュリーと言ってもわからないよね。ああ、ジェネレーションギャップ!

私は20代から30代半ばまでの12年間をアメリカで過ごしたことから、帰国後、同年代が当然知っているはずの井上陽水も松田聖子も江川卓も中内功も売り出し中の上野千鶴子も知らなかった。偶然手に取った『女としての快楽』(勁草書房)を読んで、そのすっきりとした論理性ととびはねた発想にいたく感心していたところに対談の機会を得て、上野千鶴子大先生におはつにお目にかかった。

私はアメリカ時代の最適化理論と数値解析から社会の構造に関心が移った直後で、社会学も女性学もなにも分からなかった。上野さんからは「こんなことも知らないの?」とあきれられるのかとひやひやしていた。と思いきや、会ってみると思いのほか、親しく暖かく接してくれた。なんとなくお姉さんが、無学な弟を助けるがごとく、日本社会に適応するにあたって、いろいろと心配してくれた。

わが、同ジェネレーションの上野さんは、初対面のとき「私たちの世代は全共闘の敗北を経験しているはずなのに、あなたはその間、アメリカにいたものだから、その敗北感がない。まるでカリフォルニアの青い空のようだ」と褒め言葉か皮肉かわからないが言っていた。なるほど、わたしは同世代にくらべて12年間のロストジェネレーションがあるというわけだ。となると、今どきの若者にも、同世代にも、ジェネレーションギャップがあるということになってしまう!

今年の元旦の朝日新聞に岩波新書創立70年記念の全面広告があった。私が書いた本の中で唯一ベストセラーになった『ボランティア もうひとつの情報社会』が、70年間の岩波新書のうちの7冊の「代表作」として紹介された。それは、ひとえに、上野千鶴子さんが「ボランティア・ブームをひきおこした事件ともいうべき出版」という、目立つ推薦コピーを提供してくれたからだ。同世代の友は、やはり、ありがたいものだ。

(掲載日:2009/04/30)