金子重人さん
イラストレーター、キャラクターデザイナー、デジタルマンガ家
1995年 環境情報学部卒業
◆何が出来上がる?正体不明のデジタルエンタメ作品。出発点はSFC
大学4年時。坂根厳夫研究会にて。
「迷宮の町」と言うデジタル作品を私は制作しました。
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デートの朝。寝坊した主人公が近道をしようと足を踏み入れた町は、T字路の角を曲がる度に同じ事が繰り返される不思議な町…。時間も空間も戻されてしまうこの「迷宮の町」からどうすれば抜け出せるのか…?主人公は彼女に会えるのか…?
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Macintoshでハイパーカードと言うクリエイター心をくすぐる多機能お絵かきソフトを使い「白黒ドット絵紙芝居」を作りました。
「Macで読むマンガ型ゲームブック」と言ったところでしょうか。
T字路ごとに「左へ」「右へ」と言う2つのボタンを配置。読み手に主人公の進行方向(=運命)を決めてもらいます。選択肢によっては主人公を不幸な結末へ導いてしまうかもしれない…と言う作者のイタズラ心満載、一筋縄ではいかない分岐型物語です。
紙芝居だか、マンガだか、ゲームだか、カテゴリー分け出来ない正体不明のデジタル作品を私は一人、SFCで楽しみながら作っていました。
◆表現力&演出強化!カタチを変えるSFCメイドの作品
SFCを卒業して7年…。
週刊少年ジャンプが「第一回デジタルマンガ賞」 の募集を始めました。
デジタルマンガ?
「コンピュータ上で見るマンガ」と言う事以外、主催者側は「デジタルマンガ」と言う未知のモノについてルールや制限を設けませんでた。作り手の自由な発想にまかせる、という事でしょう。
そこで私は閃めいてしまいました!SFC在学中に作った「迷宮の町」をリメイクすればオモシロいデジタルマンガになるのではないかと!
白黒だった絵をカラーでキレイに描き直し、物語性を重視してゲーム性は下げ、最後の最後だけ分岐するよりシンプルな作品に。こうしてSFCで産声を上げた「迷宮の町」はデジタルマンガ「でられない町」として生まれ変わりました。
◆あの有名漫画家も認めた!実を結ぶSFCオリジンの作品
・ 町で出会う脇役キャラクターが物語を進める鍵となるゲーム的な要素。
・ 次々にコマが重なり画面を切り替えるデジタルならではの演出。
・ 最後のT字路で主人公の運命が変わるマルチエンディング。
これらが評価され「でられない町」はデジタルマンガ賞で準入選しました。
後日、編集部で思ってもみなかったコメントを頂きました。「審査員の鳥山明先生がデジタルならではのオモシロさを一番評価してましたよ」と。
SFCで作ったカテゴリー分けできない正体不明のデジタル作品が、形を進化させデジタルマンガとなり、尊敬する漫画家に認めて頂いた…。こんなに嬉しい事はありません!神龍が願いを叶えてくれたのかと思いました。
◆貴重だったSFCの環境。今も貴重なSFCの友人たち
…その後。
毎回最後に分岐しパラレルワールドが展開するデジタルマンガをWEB版少年ジャンプで連載したり、写真+マンガ表現という形のデジタルマンガを制作したり(※1)、分岐型4コママンガを携帯電話やパソコンで見るWEB版朝日新聞で連載したり、とコンピュータを使ったデジタル作品作りに挑戦する機会を頂きました。
これら全ての下地となっているのは「迷宮の町」を作ったSFCでの貴重な経験です。コンピュータに触れる機会が多く、正体不明のデジタル作品を作り、見てもらい、評価してもらう最良の環境がSFCにはあったのだな、と今更ながら強く感じ、ありがたく思っています。未知のジャンル、新しいメディアやツールを使った正体不明の作品作り。それが私の中にある「SFCスピリッツ」と言えるかもしれません。
今後は、デジタルマンガや電子書籍を絡めた新しいデジタルコンテンツの制作や新しい鑑賞スタイルの提言なども出来たら、と思っています。楽しい人生、オモシロい事をたくさんやりましょう!
…最後に。
卒業から15年以上たった今でも、展示会などのイベント毎に顔を出してくれたり、手伝ってくれたり、差し入れをくれたり、コメントをくれたりするSFCの友人たち、作品作りのきっかけを下さった坂根先生に感謝しています!SFCのつながり、オンラインでもオフラインでも本当に心強いです!
金子重人
アルゼンチンでの生活、アメリカ高校留学を経て、AO入学。
SFCでは「シックン」「迷宮の町」などMacintoshを使ったインタラクティブ作品を制作。
SFC卒業後、ゲーム会社に入社。5年間在籍。
外国語への移植、RPGのマップデザイン、モンスターモーションデザインなど行う。
退職後、世界一周の旅へ。366日かけ5大陸、42カ国を巡る。
その際、旅の様子をボールペン1本で160ページにおよぶ絵日記を記す。
帰国後、デジタルマンガ作品「でられない町」が週刊少年ジャンプデジタルマンガ賞準入選。
写真をマンガ的手法で見せるデジタルマンガ「アソブ研究所」(※1)、手塚治虫キャラクターTシャツデザインなど手掛ける。
最近は、アプリを様々な方法で試す「iPhoneガチンコ実験室」、電子書籍やタブレット端末活用法研究、イラストや似顔絵制作などが活動の中心。
(※1)デジタルマンガ「アソブ研究所」URL http://www.asoblab.jp/
facebookページ gcfactory
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(掲載日:2012/09/19)