SFCスピリッツ
コミュニケーションの力を信じて-民放記者、中東勤務そして国連職員に至るまで-
山下 亜仁香さん
国際連合食糧農業機関広報官
2003年総合政策学部卒業
早いものでSFCを卒業してからもう9年になります。湘南の実家の近くに映像作りから経済学まで幅広く学べるキャンパスがあると知ってAO入試で入りました。振り返ってみると充実した4年間で、ゼミは渡辺靖先生のもとで文化人類学を、竹中平蔵先生のもとで経済政策を学び、福田和也先生のゼミにもぐって小説も書きました。昼は鴨池で本を読み、夜になると誰かの家や居酒屋で「世の中を変えるには」みたいな議論に明け暮れたのを懐かしく思います。
在学中はアメリカに企業の社会的責任(CSR)などについて調査研究旅行に出していただき、CSRのキャリアを夢見ました。卒業後は日本テレビ経済部の記者として勤務しました。多くの先輩に暖かく育てていただいたのですが、夜討ち朝駆けの日々に疲れ、欧州留学を決めて退社しました。
大学院では可能性を広げようと国際経営学を選びました。そこで会ったのが今の夫です。卒業後は彼の転勤に随行してアラブ首長国連邦ドバイに移りました。新興市場での職探しは至難を極め、半年ほど実りのない就職の面談やフリーライターの仕事が続きました。中近東の人事担当者や経営者の前では慶應や欧州MBAのブランドは威力をなさず、このまま20代後半を無駄に過ごしてしまうのではないかと焦燥感にかられました。
しかしドバイ首長が経営する投資会社に入ってチャンスが広がりました。三井住友銀行、大和証券など日系企業の中東支社設立イベントのコンサルティング事業を次々頂き、企業広報のキャリアが開かれました。結局ドバイには5年ほど滞在し、二児を出産しながら地元大学で教鞭も取りました。最後の一年半はクウェート系の投資会社の広報マネージャーとして、アフリカ、アジア、欧州、中東など10カ所以上のプロジェクト広報を担当しました。
それなりに充実していたものの30歳を迎える頃「このままでいいのだろうか?」と不安になりました。同級生にはマザーハウスの山崎大祐やフローレンスの駒崎弘樹など鴨池で語り合った理念を現実化している仲間がいるのに、自分はドバイなんかで何をしているのだろう?と思いました。圧倒的な貧富の差や持続可能性を無視した経済発展のさなかで、それに自分も加担をしているのではないか。
そんな時、たまたまインターネットで国際機関での広報の仕事について読みました。「コミュニケーション力」を国際協力に活かせることを発見し、さっそく外務省のジュニアプロフェッショナル制度に応募しました。これは35歳までの若手日本人プロフェッショナルを国連機関に2年の任期で送り込み、キャリアの構築を助けるというシステムです。国連組織は国連経験がないと入りにくいという点があるので、私もこれで2011年のはじめよりローマに本部がある国際連合食糧農業機関(FAO)の広報渉外局で働き始めました。
FAOは食料安全保障という今後、ますます人口が増える中大変重要な課題のひとつに取り組んでいる国連専門機関です。飢餓のない世界を目指して、農業水産林業の分野での開発援助および政策提言を行うほか、研究やガイドライン作り、関連分野に関する国際的な討議の場(国際交渉)も提供しています。世界の農林水産省という立場と開発援助の専門機関と二つの側面を持つ分、幅広い専門分野の職員を抱え、大変エキサイティングな職場という印象です。
まだ駆け出し国連職員ですが、飢餓撲滅キャンペーンの管理やパンフレットなど広報資料作りなど、すぐに組織のPRに結びつく責任ある仕事を任せてもらっています。先月は途上国の現場に赴いて広報用のビデオを製作するという仕事もやらせてもらいました。途上国では多くの村を訪問し、農民の方と話すチャンスがあったのですが、どの村でも村人総出で歓待してくれ、「FAOのおかげで収入ができて、子供を学校にやれる」など感謝の声を寄せてくれました。本部ではデスクワークが中心で、会議の調整など官僚的な仕事もありますが、9年前、鴨池で理想論を語っていた私と今の自分はしっかり一本の線で結ばれているな、と思います。
国連で働きたいという後輩に伝えたいのは、この分野には100人いたら100通りの入り方、働き方があるということです。職位を駆け上がることが出世の尺度でもありません。語学力や関連分野の専門知識、職務経験などは必要ですが、後はバイタリティと冒険心、そして「理想」を求める熱いハートが大事なのかな、と思います。そういう意味でもSFCなくして今の自分はなかったと思います。
これからもSFCの後輩の多くに国連だけでなく世界を舞台にしたキャリアを目指して欲しいものです。
外務省のジュニアプロフェッショナルプログラム http://www.mofa-irc.go.jp/boshu/jpo_haken_2012.htm
担当している飢餓撲滅キャンペーン http://www.endinghunger.org/en/motivate.html
フェイスブックも是非ご覧下さい http://www.facebook.com/1billionhungry
仕事に関してのブログ http://www.advertimes.com/author/yamashita_anika/
出張先のバングラディッシュで現地スタッフや村人と
(掲載日:2012/01/24)