SFCスピリッツ
ギャル男からみたSFC
荒井悠介さん
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
2007年政策・メディア研究科修士課程修了
私は109系ファッションの学生さんに、ファッションやヘアメイク、ネイルなどの専門技術教育を行う通信サポートの高校と大学で講師として働きながら、渋谷センター街のギャル・ギャル男とよばれる若者たちの集団の文化を研究しています。
大学院卒業後、新潮社の編集者であり、SFC出身でもある金寿煥さんを、恩師の渡辺靖先生にご紹介いただいたことをきっかけに、この秋『ギャルとギャル男の文化人類学』という新書を出版させていただきました。この本は、繁華街で活動しているギャルやギャル男と呼ばれる人たちを文化人類学的に研究したもので、2007年に提出したSFCでの修士論文「イベサーのエスノグラフィー-ストリートを学校と捉える若者達-」がベースとなっています。
目的意識もなく享楽的に遊んでいる若者と見られがちな彼らも、実は彼らなりに目的意識を持って、いろいろな活動をしています。研究の結果、彼らは華やかで大きな成功を手に入れたいと考えており、そのためには一般常識では不道徳とも捉えられるようなキャリアを積むことが必要と思っていることがわかりました。なぜ、彼らがこのような価値観を持つように至るようになったのか、日々どういった活動をしているのか、そうしたことを信条とする彼らの考えや行動には危うさがないのか、そして若者にそのような社会観を持たせる社会やメディアの姿は果たして美しいと言えるのか、本書では彼らの生の声と活動、そして私が感じたことをできるだけわかりやすく伝えたつもりです。
SFCの大学院へは他大学を経て、入学しました。SFCへの入学前は「要領よく研究し、パソコンを使いこなすような人たちが多い」というイメージがありました。しかし実際に私が見てきた人達は、そのようなスキルを持ちながらも、堅実に努力を積み重ねる人がとても多かったと思います。
在学中はほぼ毎日のように大学院棟に寝泊まりし、寮のような生活をしていました。渋谷にフィールドワークに行き、終電で帰ってからはロフトで研究活動をする。朝まで研究日誌をつけ、ひたすら本を読み、みんなと議論する生活です。徹夜作業は当たり前でしたし、大学院棟では24時間、誰かしら作業をしていたので、キーボードをタイプする音が絶えることはめったにありません。
もちろん、必ずこのような学生生活を送るべきだ、とは思いません。私自身、大学院に入学するまで本はほとんど読んだことがなく、パソコンも使えなかったので、携帯電話で卒業論文や研究計画書を書きSFCに入学しました。また学歴さえ得れば、学校に行くよりも渋谷センター街でギャル男をしているほうが、社会に出て役立つタフな力やセルフプロデュースに役立つ武勇伝を得ることが出来ると信じていました。
そのため、「大学で勉強ばかりしていても実際には就職には役に立たないし、自己満足に過ぎない」という声も、あながち否定できません。
ただしSFCには、自分の意志を持ち努力と研究を積み重ねている人間を、正当に評価してくれるという文化があります。親身になって指導してくれる先生、先輩方、ともに研究活動に励むことのできる仲間達、奨学金や研究基金、各種設備といった支援体制などなど。なにより実社会で自分が活躍するためのチャンスも仲間も見つけることができます。
当然のように思えるかもしれませんが、これはSFCの外部の人間から見ると、非常に貴重なものです。実際に私がいた環境や、自分自身の青春時代に見てきた世界では、何か新しいことにチャレンジしようと思ってもそのチャンスは少なく、リスクばかりが高いということがほとんどです。世の中にはチャンスを得たくても、自分の力を伸ばしたくても、それが出来ない環境にいる人が大勢います。チャンスを得るためにリスクを犯すことを美談として受け止めざるをえない同年代の方々も沢山います。そんな中、自分のいろんな可能性を試せるSFCの文化はとても稀有なものです。SFCを目指す、あるいはSFCに在籍している学生の方には、その文化を十分に活かしてほしいと願っています。
今度は私がSFCに恩返しをする番だと思っています。私ができることであれば、是非とも協力したいと思っていますので、なにかお役に立てることがありましたら、SFC事務室の広報担当(問合せ先はこちら)を通じてご連絡下さい。
(掲載日:2009/11/10)