SFCスピリッツ
政治の力
山本志門さん
テレビ朝日報道局 政治部記者
1998年総合政策学部
私はテレビ朝日報道局で政治部記者をやっています。正確には現在、社命により1年間北京に留学しているため“籍”がある状態です。しかし帰国後も政治部に復職する予定ですので、この場では、政治取材に関することを少々書かせてもらうこととします。
政治部では小泉総理大臣の「番記者」を駆け出しに、これまで外務省、防衛庁、自民党派閥、首相官邸を担当してきました。SFCでは、森本敏先生や、故小島朋之先生に師事し、国際政治・安全保障政策に強く関心を持っていたことが、今の取材に大変役立っています。
ただテレビの政治原稿のほとんどは、1分間ほどです。だから、伝えられないこともたくさん出て来ます。「このニュースの最も重要なポイントは何なのか」。それを瞬時に判断して、言葉の精査を重ねて原稿を書くことに、毎回神経を尖らせています。
バラエティやドラマを担当する同期は芸能人との付き合いが仕事という一方で、我々は政治家や役人といかに付き合い信頼され、本音に迫れるかが醍醐味です。一方、難しいのは「距離感」です。政治家は、戦国時代なら“斬った斬られた”の最高権力闘争をやっているわけですから、明示的にも陰湿的にもあの手この手で色々とやってきます。記者も時々巻き込まれて辛い思いをすることも少なくありません。
精神的に追い込まれることも多いですが、それでもこの道で頑張っていこうと思えるのは、「政治の力」というものを信じているからです。
例えば、小泉総理が2回目の訪朝をして、北朝鮮に残されている拉致被害者5人の子供を連れ戻せるかどうかが、政治的に大きな焦点になっていた時でした。「なんとかして欲しい。」そういう思いで、拉致被害者5人が首相官邸に要請に訪れました。官邸はカメラのシャッター音が鳴り響いていたにも関わらず、それは重苦しい静寂に包まれていたことを今でも鮮明に覚えています。
あの時、政治には個人の力ではどうにもならないことに立ち向かう「強さや優しさがある」。それを強く意識した瞬間でした。
過去イラクで日本人人質事件が起こった際には、夜中12時過ぎに「明日朝、ヨルダンに行け」との命を受けたこともあります。ニュースの時間に原稿が間に合わずうなされる夢も時々見ます。生活はとかく振り回される一方ですが、バランス感覚を保ちながら愛嬌を絶やさずに精進していきたいと思っています。
(掲載日:2009/03/11)