SFCスピリッツ
デジタルで人と人のコミュニケーションを豊かにする
今井佑さん
株式会社日本経済新聞社 デジタル編成局編成部
2002年総合政策学部卒業
私は現在、株式会社日本経済新聞社で日本経済新聞 電子版の創刊準備をしています。マスコミ業界に押し寄せるデジタル化の波に新聞社も否が応にも対応を迫られる一方で、コンテンツ提供を一部有料化し、「ネットの記事はタダ」という人々の価値観を「良質な記事は対価を払うもの」へと変えられるチャンスでもあると考えています。プロジェクトに参画するに当たっては、紙の新聞の良さを残し、デジタルならではの付加価値を追求できる知識や技術、発想を持つことが絶対条件でしたが、そこにはSFCでの経験や、前職での経験が生きています。
SFCでは村井純教授の研究室に所属し、インターネットを支えるテクノロジーを学びつつ、インターネット上の人間行動を社会学的なアプローチで研究していました。どちらかといえばテクノロジー寄りな研究室において、「SFC Antenna」というSFCの学生が書く日記を集めたポータルサイトを運営し、日記を通じたコミュニケーションを分析する研究は異端だったかもしれません。しかし、研究を通じて「デジタルで人と人のコミュニケーションを豊かにする」のが自分の使命であり、一生涯の活動テーマである、と気づけたのは最大の成果でした。
卒業後は、それをすぐに実践すべく株式会社NTTドコモへ。5,000万近くの加入者を相手に商品・サービスを提供し、コミュニケーションのあり方を変えていける環境は非常に魅力的でした。ケータイでテレビ電話をする、買い物をする、電車・バスに乗る、ワンセグを見る、といった世界は10年前には考えられないものでしたが、今では日常的な光景です。モバイル業界でアイディアを形にするには、「いつ・どこで・だれが」それを利用しメリットを感じるかに想像を巡らせるのはもちろん、テクノロジー的な背景を理解し、最終的にどうビジネスとして収益を上げるかを考えられなければなりません。SFCで培ったものがある分、私の場合はスムーズに進めることができました。
アイディアを実社会に適応する過程で、そもそもデジタルと親和性の高いケータイだけを扱うのではなく、デジタル化することでより発展する商品・サービスを扱っている業界に飛び込み、培ったものを試してみたいと思うようになりました。転職した新聞社がその想いに100%叶っているかどうかは今後の結果を見ないとわかりません。しかし、業界のターニングポイントにおいて新しいメディアを立ち上げることは滅多に経験できることではなく、充実した日々を過ごしています。「SFC卒業生はすぐに転職してしまう」と言われ、反発を覚える時期もありましたが、いざ自分が転職してみるとその言葉の意味がよくわかります。徐々に積み上げていく経験により、できることや発想の幅が広がっていく。広がった以上は世の中に還元しないともったいないと考えるようになる。活躍の場を求めるのはSFC卒業生として自然な流れなのだと思います。
日本経済新聞 電子版:http://www.nikkei.com/
(掲載日:2010/03/16)