SFCスピリッツ
ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)を目指しMBA
福吉潤さん
ハーバード大学ビジネススクール 研究員(ケースライター)
株式会社キャンサースキャン 代表取締役
1999年総合政策学部
‘Now, we have two options; one is to go ahead with theproject, another is to stop the project right away. As the companypresident, what do you think? Jun!!’
ゲッ、来た!!100人近くの学生が一斉に私を食い入るように見る中、’OK, I absolutely go ahead withthe project. I have three reasons forthat’と心臓のバクバクをおさえてすましてみるものの、はたから見れば引きつっているだけにしか見えないだろう。
Harvard Business School(通称HBS)の名物coldcallである。何の前触れもなく、突然教授がその日のケースをオープンするようにある学生を指名する。粘性の高い教授のcoldcallになると、’Why?’を繰り返され、10分近く解放してくれないこともある。HBSでは卒業までの2年間の間に500-600のケースを経験するので、coldcallの「犠牲者」も同じ数だけいる計算になる。
厳密には、「何の前触れもなく」というのは正しくない。授業中の発言が成績の半分を占めるHBSでは、教授陣は全生徒の発言の質と頻度を神経質にトラックしている。従って、3回ほど連続で授業中の発言ができなかった場合は、必然的にcoldcallの対象になりやすい。しかし、それはむしろクラスのディスカッションに半歩遅れてしまうInternationalStudentsに対して発言の機会を与えるという、教授の温情的側面もある。
「何で32にもなってこんな目にあわんといかんのよ、、、」と思いつつ、なぜHBSにやってきたのか思い起こす。
SFCを卒業して7年。P&Gのマーケティングでブランドマネージャーとして化粧品ブランドを担当していたある日、「この商品が売れても売れなくても、世の中良くも悪くもならないな」という考えがふと浮かび、それが消えることは無かった。「マーケティングは面白いし、チームでビジネスをするのも好きだ。でも、もっと社会にインパクトのあることに自分のキャリアをかけたい」と強く思った。
しかし、具体的に何をしたいという指針もなく単にキャリアを一から考え直したいという一心でHBSに入学した。
「HBSは、みんなが社会に良いインパクトを与え貢献するための方法を教える。ビジネスの英知を身に付けることで、SustainableでScalableに貢献することが可能になる。そしてそのリターンとして大金を手にするのだ。しっかり勉強するように」入学して初日の学部長のスピーチに心が震えた。
それから2年。今までの人生の中で最もエグイ、しかし最も充実した日々がやっと2008年6月に終わった。その後、HBSのケースライターとしてケースを書きつつ、8月に日本に帰った後、「ソーシャルマーケティングを医療に」というテーマでキャンサースキャンという会社をハーバードの同級生と立ち上げた。「社会のために良いことをして利益を上げる」という夢が実現するかどうかはこれからだ。
(掲載日:2008/12/24)