SFCスピリッツ
ゲノム一筋11年
坂井寛章さん
独立行政法人農業生物資源研究所 基盤研究領域 ゲノム情報研究ユニット 研究員
1999年環境情報学部、2001年政策・メディア研究科修士課程、2007年政策・メディア研究科後期博士課程
独立行政法人 農業生物資源研究所というところで、お米(イネ)ゲノムの研究を行っています。といっても白衣着てフラスコ振ってるわけではありません。生物の遺伝情報一式をゲノムと言いますが、遺伝情報(ゲノム情報)は、DNAという物質に書き込まれていて、その配列はATGCという4つの文字情報に置き換えることができます。イネのゲノム情報をコンピューターで解析するのが、僕の主な仕事です。我々が普段食べているお米というのは、およそ1万年前から、野生のイネが栽培化されて今の姿になったと言われています。1万年という時間の間に、野生イネと栽培イネにどのようなゲノム情報の違いが蓄積されてきたのか興味を持ち、コンピューターで比較して明らかにする研究テーマに取り組んでいます。野生イネは、栽培イネには無い遺伝子を多く持っていると考えられ、その中には、例えば病気になりにくい遺伝子や、悪い環境でも育ちやすい遺伝子といったように、イネを強くすることができる鍵が含まれている可能性があります。
僕がこの道に進むきっかけとなったのは、学部1年生の時に受講した、冨田勝教授(冨田さん)の「生命システム」という授業でした。「どうですかみなさん?生命ってすごくないですか?」と熱く語りかける冨田さんを見た時の、胸の高鳴りは今でもよく覚えています。生命のすごさを知る鍵がゲノム情報にあると知り、学部3年生の時に冨田研に入りました。一見ただのアルファベットの羅列に見えるDNA配列が、ちょっとルールを決めてやるだけで実に理路整然とした構造として見えてくるのです。コンピューターを通じて生命の謎に迫る、それまで想像もできなかった新しい世界に僕はどんどん引き込まれていきました。あれから11年、進学、就職、出向しながらいろいろな研究施設を転々としてきましたが、常にゲノムと向き合ってきました。モチベーションは今でも11年前と同じ、生命ってすごい、DNAに込められたメッセージを知りたい、ということ。それは果てしない夢のようなものかもしれませんが、今自分が何を知ろうとしているのかを見失わないように、しっかりと目標を見据えて研究人生を歩んで行きたいと思っています。
(掲載日:2008/03/19)