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2015.09.01

筧康 明 研究会「デジタル・フィジカル・インタラクティブ」

環境情報学部 准教授 筧康明

専門分野:
インタラクティブメディア
メディアアート

アイデアや行動を引き出す
新しい「関係性」をデザインする

研究テーマを説明する際にはいつも苦労するのですが、一言で強引にまとめると「物理世界(人・モノ・空間・情報)の新たな『関係性』をデザインする」ということになります。
これは、テクノロジーを活用することで、二極化しているデジタル世界と物理世界を統合した新しい環境と、その中での人間の営みを考える取り組みです。人と人、人とモノ、人と空間、人と情報など、「関係性」はあらゆるところに存在します。その関係性を表したり、相互にやりとりするために必要になるのがインターフェースです。インターフェースというと、パソコンのマウスやキーボード、スマートフォンなどのタッチパネルといったデジタル世界とやりとりする装置を思い浮かべるかもしれません。しかし、当研究会が目指すのは、コンピュータの中と外をつなぐのみならず、コンピュータの力を用いて、物理世界自体をコントロールし、人間とのアクティブなインタラクションを可能にする世界です。人と人、人とモノ、人と空間の新たな関係の中で、人間のアイデアや行動を引き出すためのインターフェースやツールなどの研究開発を行っています。
もうひとつのキーワードであるデザインですが、これは「意匠」という意味だけでなく「設計」という意味も含んでいます。目的に応じた新しい関係性や表現を設計することも当研究会のテーマです。そのために、工学とアート、デジタルとフィジカルの区別をすることなく、常に多面的なアプローチが必要になります。

デジタルとフィジカルを一つにする
3つのステップ

当研究会では、これまでにさまざまなツールやデバイスをデザインして、実現してきました。一見するとバラバラのように見えますが、大きく3つのテーマにそって、デザインされています。

1つ目のテーマは「ハーモナイズ」です。アトム(実世界)とビッツ(情報)のインテグレーション(統合)を目指しています。開発例としては、空中を自在に飛び回る粒子や、キャンバスの上をひとりでに動いて絵画を完成させていくインク、状況に合わせて変形する家具やメガネ、モノの触感を記録・拡張するデバイスの研究を挙げることができます。ここで生まれるのは物性や現象とデジタル制御が絡まり合って、もはやアトムともビッツとも呼びきれないマテリアルです。

2つ目のテーマは「インタラクション」です。これはヒューマン(人)とアトムとビッツの掛けあわせ・組み合わせによって、人間の身体機能や創造性を引き出す新しい道具を生み出していく試みです。分かりやすい開発例は、紙の上でコンピュータ制御で動き回るペンを操りながら絵や文字を描くドローイングツールや、造形の途中でできあがりの形を自由に変える3Dプリンターなどです。人間がクリエーションする力を進化させる新しいツールです。

3つ目のテーマは「ハビリテーション」です。マジックのような驚きを生む新規性も重要ですが、それと合わせて実際の生活の現場で人の行動を引き出したり、深化させるための実践も目指しています。この活動はキャンパスを飛び出して、現場や個人に寄り添いながら行っています。一つの実践例として、現在、医療施設や福祉施設と共同して、パーソナルなリハビリテーションのツールの開発などを進めています。医療や福祉、そして教育やクリエーションの分野での活用を期待しています。

あらゆる分野に適用できる関係性のデザインをフィジカルなネットワークの中で学ぶ

当研究会では、それぞれが発想して、デバイスを作り、それを展示・発表し、論文にまとめています。だからといって、一人ひとりがバラバラに研究を進めているわけではありません。ものづくりは、一人だけではできません。お互いの得意分野を活かし合いながら議論をぶつけながら進めていくことが必要で、実際にひとつの場所に集まることは重要です。デジタルでも、フィジカルでもネットワークの中にいることが大切なのです。

もうひとつ大切なことは、言葉にするということです。具体的には論文にまとめ、発表するということです。当研究会では、学部の2年生でもごく普通に国際学会に参加しています。その際に注意が必要なのは、「ハイブリッドに逃げない」ということです。工学とアート、デジタルとフィジカルの両面からのアプローチが特徴ですが、工学系のコンペティションでは工学のテーマで挑み、アート系では芸術性で勝負する。それによって、しっかりとした基盤が自分自身の中に構築されます。

関係性のデザインは、あらゆる分野に適用できます。SFCで過ごす4年間で必ず何かを掴めるはずです。

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