MENU
Magazine
2017.06.23

SFCから約2キロ、文教大学湘南キャンパスで教えています|酒井信さん(2002年政メ修士、2008年後期博士修了)

酒井 信さん

文教大学情報学部メディア表現学科 准教授
2002年政策・メディア研究科 修士課程修了
2008年政策・メディア研究科 後期博士課程修了

写真1.jpgSFCから最も近い場所にある大学(文教大学湘南キャンパス)で2010年から教えています。両大学は距離こそ近いですが、関係はさほど深くなかったようで、着任してみると私がSFC出身ではじめての専任教員でした。現在では、メディア表現系の科目を中心として、多くのSFC出身の先生方に教えに来て頂いています。里山公園を挟んで2キロと少し。これからもっと教員と学生の双方の関係が深まることを願っています。*写真1 文教大学湘南キャンパス情報学部/酒井信ゼミ

 写真2.jpg私は文教大学情報学部メディア表現学科で、ジャーナリズム論や小説・評論演習など広義のMedia Studiesに関連する科目を教えています。担当しているゼミでは、ウェブ・メディアの普及を前提として、「第四の権力」としてジャーナリズムが国際的に直面している問題や、文学やサブカルチャーなど現代日本の文化表象が国際的に与えている影響など、学際的なテーマについて学生と共に研究しています。また茅ヶ崎市と連携して、Government 2.0のコンセプトを実践すべく、学生の視点から自治体の財政情報をチェックする情報誌を制作したり、湘南地区のIT企業と連携して、ウェブ上で地域の魅力を発信する広報活動に、ボランティアで取り組んでいます。
*写真2 茅ヶ崎市庁舎での財政情報誌の発表会/茅ヶ崎市長、副市長、文教大学学長、ゼミ生との集合写真

 このような教育・研究活動はSFCでお世話になった二人の先生から影響を受けたものです。一人目は、修士課程・博士課程で主査を務めて頂いた福田和也先生。批評家として「脂の乗った」時期に福田先生と出会ったことで、「寸暇を惜しんで、浴びるように読む」ような活字との向かい方や、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ように自由な文芸批評のスタイルを、身近な所で学ぶことができました。私が論壇誌と文芸誌の双方に批評文を書く機会を得ることができたのも、福田先生とその師の江藤淳先生(1992年〜1997年、環境情報学部教授)が、湘南藤沢キャンパスの森に「批評の道」を切り開いて頂いたお陰だと思っています。

 もう一人の恩人は、博士課程の単位取得後にお会いした福井弘道先生(1996年〜2011年、総合政策学部教授)です。たまたま小島朋之先生(1991年〜2008年、総合政策学部教授)に論壇誌に掲載された拙文をお目通し頂き、他の先生方と話題にして頂いたことで、福井先生との「SFCらしい学際的な出会い」に繋がり、三田キャンパスのグローバルセキュリティ研究所にお誘いを頂きました。

写真3.jpg グローバルセキュリティ研究所では、ウェブ上の英字ニュースを収集し、自然言語解析にかけ、類似した固有名詞を多く含むニュースをベクトル空間上でクラスター化することで、アルゴリズムの上で「中立」に近い観点から世界のニュースを比較分析する研究に従事しました。福井先生のプロジェクトでは、助手・助教・研究員として4年にわたり、共同通信社等と共同研究を行い、ウェブ上のニュースの解析と分析について研究を重ねながら、政党や官庁から新聞社や広告代理店まで、様々な場所で研究成果を発表する機会を頂いたことで、社会人として鍛えて頂きました。他にも福井先生とは標高3千メートルを超える山に登ったり、10メートルを超える高さから滝壺に飛び込むなど、様々な「フィールドワーク」をご一緒することで、人間としても鍛えて頂きました。
*写真3 中部大学中部高等学術研究所/2017年に文教大学のゼミ生向けに実施頂いた福井弘道先生の特別講義

 このような機会は、文献を購読して論文を書くというオーソドックスな研究活動を超越したもので、政策・メディア研究科以外の場所では、得ることができない貴重なものだったと言えます。若い学生にとっては都心から離れたSFCに通っていると「他の大学の芝生が青く見える」こともあるかも知れません。しかし国際的に評価の高い大学は、都市の騒々しさから距離を置いた場所にキャンパスを構えているもので、そういう大学の学費や研究設備をチェックするだけでも、「SFCの芝生の多様な青さ」が実感できると思います。

 写真4.jpg現在もSFCでお世話になった様々な方々との「学際的な交流」は続いています。例えば石崎俊先生(1997年〜2012年、環境情報学部教授)のゼミで自然言語解析を学び、データマイニングの会社を起業した池上俊介さんとは、共同通信社との困難なプロジェクトを乗り切った「戦友」のような間柄で、親交が続いています。現在では文教大学の私のゼミ生をインターンとして受け入れてもらいつつ、AI(人工知能)を用いた記事の制作システムの精度を検証する研究に着手しています。
*写真4 渋谷区のデータセクション株式会社/取締役の池上俊介さんと

 AIの普及で人間の仕事が減ることが危惧されていますが、AIを介して「人間にしか出来ない仕事の価値」が再評価されることは、良いことだと思っています。例えば私が関わりのある活字メディアの世界だと、AIを使って編集や校正の作業の負担が軽減されるようになれば、個々の書き手や編集者は自律=自立を促され、想像力が必要な作業に力を注ぐことができます。

 将来、私はAIを用いた編集・校正支援システムを用いて、政策・メディア研究科の在学時にやり残した課題に取り組みたいと考えています。それは2000年に福田和也先生からご提案頂いた「現代の日本文化について、批評的な情報を配信する新しい通信社を作らないか?」という課題です。大学教員としての勤めを果たしながら、AIの技術とSFCで出会った方々の助けを借り、「新しい通信社を作る」という「重い課題」に応えていくことが、40代に足を踏み入れようとしている私にとっての「SFCスピリット」と呼ぶべきものだと考えています。
 

ブログ:https://makotsky.blogspot.jp/