総合政策学部特別招聘教授 山崎 亮
studio-L代表
担当科目:社会起業論(春・秋学期)
パブリックマネジメント(春・秋学期)
公園、公民館、図書館、市役所。公共空間をデザインするとき、利用者の意見を聞かずに設計を進めていいものか悩んだことがある。私が大学生だった頃の話だ。先輩たちに話を聞くと、ほとんどの場合、役所の担当者と、設計を依頼されたデザイナーとで話し合って形が決まっていくらしい。「利用者が考えることなど、専門家であればすべて想定できるから問題ない」ということなのか。疑問が残った。
大学院修了後は、利用者の意見を聞きながら公共空間を設計している事務所に就職した。ワークショップを開催し、住民とともに何度も話し合いながら公共空間の設計を検討した。確かに意見の多くは「想定内」だった。しかし、私にとって重要な発見は「住民が変化する」ということだった。ワークショップの参加者たちは、話し合いながらお互いに学び合い、空間の使いこなし方を見つけ出し、仲間をつくって活動し始めたのである。これまでに、ワークショップを通じて自身の人生を変化させた住民を何人も見てきた。そんな人達が公共空間を率先して使いこなすと、その姿を見た人たちが「そういうことをしてもいいなら、私もこういうことをしてみたい」と動き出す。その連鎖が、デザインされた空間を生き生きとしたものにしてくれる。
この手法に可能性を感じた私は、2005年に設計事務所を辞めてstudio-Lというコミュニティデザイン事務所をつくった。以来15年、公共空間の設計、商業空間の運営、行政計画の策定、病院や寺院の運営、地域福祉の充実、社会教育の実践などを住民参加によって進めてきた。最近では、高齢化した受刑者たちがお互いの生活を支え合う「刑務所内のコミュニティデザイン」についても相談されている。
ワークショップは住民の学び合いの場である。大学もそうあるべきなのだが、なぜか講義は教員が一方的に学生へ伝えるばかり。「もったいないものだ」と思っていたら、SFCの授業はまったく違っていた。教員と学生が対話しているし、学生同士も対話のなかから学びを見つけ出している。「ああそうだ。本来の塾ってこういうものだったはずだ」と思い出させてくれる。
私が担当する授業では、最初に住民参加型のプロジェクトをいくつか紹介する。その後は学生同士が話し合い、ワークショップの意義、コミュニティの価値、地域社会のあり方などについて考える。ここ数年は、事前に調べてもらった事例を元に、「まずは質問を受け付けます」という言葉から授業を始めることが多い。
「専門家が設計した空間を住民に与える」という流れに疑問を抱いたからこそ、「教員が持つ知識を学生に与える」だけの授業は避けたいと考えている。学生同士が学び合い、行動を起こすこと。それが当たり前だという学生生活を経験したSFCの卒業生たちは、自分が住みたいと思えるまちのあり方について語り合い、行動に移す住民となるだろう。そのまちにはコミュニティデザイナーなど必要ないはずだ。