総合政策学部特別招聘教授 下山 進
ノンフィクション作家
担当科目:マスコミュニケーション(春学期)
技術革新がメディアを変える
2017年7月にたまたま見ていた日本新聞協会のホームページのデータ欄で、新聞が過去10年で1000万部の部数を失っていることを知ったことが、SFCで講義をすることのきっかけでした。
地方紙50紙分に匹敵する部数がなくなっている。これは「破壊的縮小」といっていい。問題は、こうした変化がどうして起きているかということ。
このことを調査しようと決意して、この20年のメディアの大きな変化を調査する講座のシラバスを加藤文俊先生に提出し、「マスコミュニケーション」の講座は始まったということになります。
100名近くの応募の中から30名程度を作文で選抜、3名一組の10のチームにわけ、チームはそれぞれのテーマを取材、調査、発表します。
2018年の1年目は「紙かデジタルか」が大きなテーマでしたので、読売新聞社や日本経済新聞社が調査対象にありました。これらの会社の経営者にも会って話を聞きながら、販売店による紙の新聞の配達というイノベーションが、インターネットの出現や移動体通信の方式が3Gから4Gに変わることで、オセロがひっくりかえるように、成長への障壁となる様がわかりました。
新聞社が失った7000億円近くの売上とほぼ同じ額の売上をこの10年で増やしたヤフーも大きな調査対象のひとつでした。
SFCの教室には、調査の対象になったメディアの方々が、訪ねてきて議論に参加をする回も多い。
ロンドンからエコノミスト誌の編集者が授業に参加
『エコノミスト』誌のエグゼクティブ・エディターがロンドンから参加しての授業
3年目の2020年はオールオンラインでの授業となりましたが、Webexを使った授業は、実は2018年から行っていました。世界の週刊誌の中で唯一成長をつづける英『エコノミスト』誌の回です。ロンドンからエグゼクティブ・エディターのダニエル・フランクリンが参加して、エコノミスト成長の秘密を特別講義したあと討論をします。
3年目の今年は、「放送かインターネットか」についても掘り下げています。日本テレビやNHKの回が新たに加わり、学生の調査チームは、それぞれのキーパーソンに、ZOOMを使ったインタビューを行いました。
私自身は、この講座を始めた時は、文藝春秋という出版社のノンフィクションの編集者でした。SFCでみつけたテーマをさらにほりさげ自分で本を執筆するために、2019年3月に文藝春秋は退社します。10月には『2050年のメディア』という自分にとって3冊目の本を出しました。「2050年のメディア」はこの講座の別名にもなっています。
現在は、4冊目の本『アルツハイマー征服』にとりくみながら、週刊誌等でメディアをテーマにしたコラムを執筆しています。
編集者も書き手も、様々なテーマにとりくみます。そうした意味で様々な専門の「学際」に活路を見いだそうとしているSFCのありかたは、村井純先生との対話をはじめとして大変刺激をうけています。
多くの大学のマスコミ関係の講座は記事や番組の中身のことだけをやります。しかし中身は技術革新によってその形が否応なく変わっていく。そこをほりさげていきたい。