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森さち子研究会

2021.01.25 / Clinical Psychology

森さち子研究会

SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。

森さち子研究会の特色

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学生の主体性を尊重した研究会です。研究会に入る際には研究テーマに取り組む姿勢を比較的厳しく問うていますが、その後は個々人の自発性と探求性にまかせています。基本的には、研究会のメンバー同士の学び合い、支え合いを大切にし、私に尋ねてくればいつでも研究へのアドバイスを行うスタンスでいます。

学生に対する態度は、臨床家としての経験に基づき、本人が主体的に学ぶことが重要だと思っているため、学生には、私の指摘やアドバイスに頼るのではなく、自由な学びを大切にしてほしいと思っています。彼らがどのような関心や問題意識を持っているかを重視し、これまでの体験に根付いた潜在的な問題意識を深め、研究テーマを一緒に明確化していきます。自分を出発点にすると自分のこころと向かい合うことになります。そのため卒業後も、その研究テーマを持ち続け、やがてはそれが生涯のテーマにもつながるようです。

「高齢者とともに」がテーマの研究会ですが、実際には高齢者に限らず、「こころ」に関わる問題意識を持った人が広く集まっています。そして臨床心理学的アプローチから「こころ」に関する現象を分析しています。その基盤には、自分のこころが人の言動によってどう動かされるのか、また自身の言動が人のこころにどのような影響を与えているのか、間主観的な観点があります。
学生には、研究会のメンバー、一人一人を尊重して、彼らが何を伝え、表現しようとしているのかをすくい取る姿勢を大切にするよう見守っています。

ユニークな研究や学生の例

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興味深い研究の例を挙げると、故郷をめぐる「対象喪失」について研究した学生がいました。「対象喪失」は、肉親との死別や、卒業、引越しなど慣れ親しんだ環境の喪失も含め、かけがえのないものを失うことですが、その学生は、目の前に広がる田園風景は変わらないのに、原発によって汚染され「質が変わってしまった」故郷をめぐる人々の体験をテーマにしました。
 
他には、卒業プロジェクトとして「その人にとって大切なもの・宝物」として選んだ1枚の写真をめぐって、50人にインタビューを行った学生がいました。インタビューを通して、その人の人生の歴史が浮かび上がり、さらにそれぞれの夢が語られていくのですが、その体験プロセスは、素晴らしいものでした。その学生は、卒業後に就職した会社でイノベーティブな領域の開拓を期待され、また仕事以外の世界でも多方面で活躍していますが、今も卒業プロジェクトで行ったさまざまな人の人生に関わる写真をめぐるインタビューをライフワークとして続けています。その経験で得られる刺激が新たなアイデアを生み出していく原動力につながっているのではないかと思います。

研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性

COVID-19により"いつもの日常"を失っている今、私たちは、この非日常を心身のバランスを保ちながらどのように生きているでしょう。一人一人がその喪失をどのように受け入れていくかということをめぐり、春学期オンラインで、そして秋学期オンキャンパスで行った授業の中の学生さんたちとの交流を通して新鮮な体験をしました。まず、オンラインでとても濃密なグループディスカッションができることに驚きました。特に"コロナ前とコロナ後"についての体験におけるディスカッションの深まりに感銘を受けました。オンラインが"繋げる"機能を発揮し、学生間でこのような共有体験が得られるという新しい発見がありました。一方、オンキャンパスの授業を再開したら、そこで共にする生き生きとした瞬間がどんなに輝きを放っていることか・・・と、改めて実感されました。

進路

多岐に渡っています。一度は就職したものの、医師を目指して医学部に進学した人や、銀行に就職した後に、学士入学をして教育者になった人もいます。他にも人事畑をまっしぐらに進んでいたり、研究会で学んだ「人の心理」に深い関心を向けながら、社会で活躍している卒業生が多いですね。

森さち子研究会の魅力

雰囲気や特徴

Mori Sachiko Lab4 Murayamasan.jpeg臨床心理士である森さち子先生が高齢者の研究もされていることから、「高齢者」という括りでテーマが設けられていますが、そのテーマ以外にも社会貢献ができ、かつ心理学に関係する内容であれば自由に研究できる研究会です。学生は各々のバックグラウンドや興味に基づいた研究を進めています。心理学の特性上、当事者意識を持って研究している学生がとても多いです。

例えば「高齢者」という観点では、祖父母から受けた愛情や死別などに関連した研究をしている学生がいます。また別の観点だと、親からネグレクトを受けていた過去や発達障害を持つ背景から研究に取り組み始めた学生もいます。育ってきた環境やバックグラウンドが様々であるからこそ、当事者ならではの視点で文献を見たり方法を模索している学生からは、いつも刺激を受けています。
「研究に人間性やその重みが見えてくること」がこの研究会の最大の魅力であり特徴だと思います。

個人研究ではありますが、研究会の時間はグループワークを中心に研究で行き詰まっているところなどをアドバイスしあったりして、高め合っています。

森先生が私たち学生に向き合う姿勢に関して感じることが2つあります。
まず、「介入しないこと」です。森先生は臨床心理士ということもあり、研究会の運営やグループワークにはあえて介入せず、学生に任せてくださいます。学生たちの議論に水を差さないよう、どうするべきか常に考えていらっしゃるのだと思います。

次に、研究を通して「自分と向き合うこと」です。全く自分の身近にない物事ではなく、人間の「こころ」について研究しているからこそ、自己が研究に介入してきて葛藤する学生も中にはいます。感情を整理することに苦労する学生には、森先生は手を差し伸べて寄り添ってくださり、「お母さん」のような安心感がありますね。先生は研究を通して自分を主体にすることで「自分と向き合ってほしい」と思っているのではないかなと思います。

得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間

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心理学的アプローチはもちろん、自分のバックグラウンドを精査して相手に伝える力や、「why」を繰り返して深掘りする力が身に付きました。

個人的に行っている活動と研究を結びつけられるところも魅力だと思います。私(水落さん)は「出会えるラジオ まるラジ」(かわさきFM)というラジオ番組のパーソナリティをしています。この経験を通して「ラジオのゲストに合わせた話し方ができるようになりたい」と思うようになりました。

研究会に入った当初はゲストが話しやすい空間づくりをつくることに漠然と興味を持っていましたが、研究会で試行錯誤した結果、「顔」「表情」に辿り着きました。相貌心理学を生み出したフランスの小児科医ルイ・コルマン(1937)の知見を取り入れ、「笑い方から相手の性格を読み取る」研究に取り組んでいます。

体育会など、所属しているコミュニティも様々で、異なる環境にいる学生の研究を見ることができるのはとても面白いですね。

研究会分析シート

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森さち子 総合政策学部教授 プロフィール

メッセージ

「SFCで、"こころ"を探索しましょう」

この研究会には、「こころ」に深く関心を持つ学生が集まってきます。「こころ」には、感じること、思うこと、すなわち「実感」はもちろんですが、自覚することのない内的な領域、「無意識」も含まれます。いつも自分の中にありながら、十分に自覚できないこころの動きに、私たちはしばしば翻弄されます。一方、自身の中にある未知の世界は創造性を生み出す可能性を限りなく秘めています。そのような不思議な「こころ」の世界を研究会メンバーと一緒に探索する相互交流の体験過程が、この研究会の醍醐味です。(森さち子教授)


「自分次第で4年間をいかようにもできる場所」

SFCは、他の大学では考えられないほど学問分野が多様で、160を超える研究会があります。また、教員はもちろん、授業では様々な分野の第一人者がゲストスピーカーとして登壇したり、設備も最先端で、学習環境としてこれほど整っているキャンパスはないと思います。
学び方は自由なので、SFCでは自分の学習に対する意識や意欲次第で学生生活が0にも100にもなり得ます。なので、未来の学生の皆さんには学びたいという意欲と、未知の学問に飛び込む勇気を持ってSFCに入ってきていただきたいです。それさえあれば最高の大学生活になると思います。
(総合政策学部4年 水落なぎささん、総合政策学部3年 村山貴春さん)

取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班