2021.03.31 / Polar Ecology
辻本 惠研究会
SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。
辻本 惠研究会の特色
辻本研究会では極域における陸上生物の研究をしています。みなさんが思いつくようなホッキョクグマやペンギンなどの大きな動物ではなく、本研究会では一般的には注目されづらい動物や植物、例えばクマムシやコケ、あまり目立たない顕花植物を扱っています。学生の研究には、私自身が所持しているデータも活用してもらっています。辻本研究会では極域の厳しい環境の中で逞しく生きる小さな動物や植物の生態系を解き明かす重要性を私と共に訴えられるような学生を求めています。
辻本研究会で大事にしていることは自分で調べて研究をする「自走の力」です。そのため、学生には自発的に行動をすることを常に促しています。また、自分の意見をまとめ上げ他人に伝える能力を学生たちに養ってもらうため、発言の機会を多く設けているのが特徴です。さらに、少人数の研究会であるため私自身が研究の相談に乗ることも多くあり、距離感の近さを感じられるのではないかと考えています。
同時に、私が研究会活動を通して学生に期待していることは、社会で生きる上での国際性を学ぶことです。これは、学部時代をアメリカやオーストラリアで過ごした私から見た時に、日本の研究者と海外の研究者とのコミュニケーションスタイルに大きな違いがあると感じたためです。国際性は実践で身につけるのが一番良いと考えているため、毎年開催されている極域研究関連の国際シンポジウムでは、辻本研究会の学生にも参加・発表をしてもらっています。海外に行かなくても国内の国際学会に参加することで海外の研究者と繋がりを持ち、「国際的なコミュニケーション能力」をこのような機会にぜひ習得してもらいたいです。
ユニークな研究や学生の例
南極大陸に自生する顕花植物であるナンキョクミドリナデシコの研究をしていた学生です。その学生は「温暖化の影響によって植物の繁殖戦略が変化するのか」を調べる私の研究で採取したサンプルを活用しながら研究活動に取り組んでいました。実際には1シーズンのサンプルのデータからでは温暖化の影響を検出するのが難しかった中で、その学生は緯度の違いや生育環境の気象条件の違いなどの外部要因の分析から結果を導き出していました。この研究によって私自身、新たな関係性に気づくことができたことに加え、学生が自ら調べた結果によって私の想定しなかった独自の結論に辿り着くことができたため強く印象に残っています。
研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性
極域における海の潜水調査は海外では頻繁に行われていますが、日本ではあまり取り組まれていません。そのようななかで若手の研究者との共同研究プロジェクトを立ち上げて、日本の南極観測拠点である昭和基地周辺の海の小さな動物の種の多様性や分布を調べています。この研究に関しては潜水調査などを伴うので、いきなりSFC生を連れて行くのは難しいですが、将来的にはぜひ SFC 生と共に南極や北極で研究活動を行いたいです。
進路
2019年着任のため、まだ卒業生の実績はありません。
辻本 惠研究会の魅力
雰囲気や特徴
少⼈数の研究会で、学⽣同⼠の仲が良く先⽣との距離も近いです。
南極の⽣物クマムシの⽣態について主に研究していますが、ナンキョクミドリナデシコという植物の繁殖と気候変動の関係性について研究している学⽣もいます。⾃分の好きなテーマで研究をしたいという希望があれば、⾃由に研究できる雰囲気です。⾼校で⽣物を選択していなくても、先⽣がそれぞれのレベルに合わせて指導してくださるので初⼼者でも歓迎しています。
研究会は主に輪読形式で進行され、先生が指定した生態学についての文献を学期を通して読み進めていきます。また、先生のお知り合いの研究者をゲストスピーカーとしてお招きし、研究内容についてお話を伺う機会もあります。
個々の研究に関しては、それぞれの文献に対して論文形式で発表します。研究内容に合わせて、先生がご紹介くださった国立極地研究所や、SFC以外の拠点で活動している人もいます。
得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間
研究を通して、気候変動が生物に与える影響や環境変化に対する視点が得られてよかったです。
また、辻本先生は現場に赴いて実際に調査などをされているので、最新の研究内容や現場の声を直接お聞きできるのも入ってよかったと思う瞬間ですね。
先生は常に親身になってくださり、学生一人ひとりと向き合ってくださいます。特に卒業論文の執筆時は大変でしたが、夜まで何度も添削してくださり、指導していただきました。また、ご相談させて頂きたいとお伝えするとZoomで対応してくださったり、コロナ以前は一緒に鴨池でランチをしてくださったりと、困った際には時間をかけて相談に乗ってくださるので、とても励みになっています。
研究会分析シート
辻本 惠 環境情報学部専任講師 研究者情報データベース(KRIS)
メッセージ
「極域から地球の未来を考える」
この研究会では、南極や北極に生きるコケやクマムシなどの小さな生き物を研究しています。小さな生き物の生き様(生態)を観察、観測するなかで、南極や北極の生態系や気候変動を学び、気候変動が現地の生態系や先住民の暮らしに与える影響を考えます。わたしたちは、生態系の中で複雑に絡みあいバランスをとりながら生き続けている地球上の様々な生き物の多様な生き様から、新しい未来を学びとることができるはずです。南極や北極という極限環境に棲む生き物の生き方を通して見据える地球の未来を、SFCで共に学び、考え、議論してみませんか?(辻本惠 先生)
「SFCの魅力」
SFCの魅力の一つは「自由な学びができる」ことだと感じています。
例えば「Aの勉強がしたい」と思って入学したとします。後になって「Bもやりたい」となったとしましょう。多くの大学ではカリキュラムの制約などがあるので、研究分野を大きく変えるのは難しいかと思います。しかし、SFCではそのときの自分の志向によって、文理問わず様々な分野の研究会に参加できるので、自分の思うまま積極的に勉学に取り組み、深めていくことができます。このような選択肢の広さは、他の大学にはない独自の強みではないでしょうか?
(環境情報学部4年柳生真輝人さん、環境情報学部2年吉村玖桃さん)
取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班