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齊藤 邦史研究会

2021.04.26 / New Types of Jurisprudence, Practice of Law

齊藤 邦史研究会

SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。

齊藤 邦史研究会の特色

★h45s7993.jpg齊藤邦史研究会では法律学に関するテーマを広く扱っています。法律学というと伝統のある学問で一枚岩のイメージがあるかもしれませんが、実際には複数の専門分野が縦割りで存在します。たとえば、民法の研究者と憲法の研究者との間で判例の解釈が一致しないということも珍しくありません。私自身、法学部ではなくSFCの総合政策学部を卒業した実務家出身の教員として、異なる分野の法律を統合的に解釈する新領域法学に取り組んでいます。SFCは総合的な学びの場ですから、SFCで法律を学ぶ際には広い視野を持ち、「社会の中の法律」という視点を大事にしてほしいと思います。

齊藤研究会に所属する学生は司法試験を目指し、法科大学院に進学する人も少なくありません。その中でも個人の研究テーマが決まっている学生は研究報告に基づくディスカッションがメインの研究会2(研究会テーマ:法律による問題解決の実践)を履修してもらいます。研究会2では研究テーマの選択を含め、学生の自主性を重視した形態としています。一方、研究分野が決まっていない学生には、時事的な問題の検討を通じて司法制度の役割を考える研究会1(研究会テーマ:「ジャスティス」としての司法)を履修してもらいます。学生の関心を反映しつつ、しっかり学びが得られるように配慮しており、法律学の中の幅広い領域をカバーしています。

過去の卒業プロジェクトでは、民法に関連するテーマとして所有者不明土地や定型約款について扱ったものや、インターネット上の誹謗中傷を取り上げたものなどがありました。会社法では、コーポレートガバナンスや種類株式に取り組んだものもあります。刑事法に関連するテーマでは、捜査機関の取調べによる自白の問題や、安楽死とか死刑制度のような倫理的な難問に焦点を当てたものなどがありました。

ユニークな研究や学生の例

スクリーンショット 2021-03-17 15.59.14.pngユニークというよりむしろ正攻法なのですが、知的財産法分野では著作権の侵害主体についての研究が力作でした。知的財産権の侵害は社会的に大きな問題になっていますが、法律学では比較的新しい領域と位置付けられており、技術やビジネスの動向を踏まえた法政策としての検討が求められています。特に、芸術分野の活動経験を通じて得られた問題意識から作品の創作・流通に関する研究に挑戦するというのはSFCらしい取り組みだと思います。
また、アジア諸国に対する法整備支援の研究に取り組んだ学生もいました。彼女は3年でSFCを退学して三田キャンパスの法科大学院の既修コースへ飛び級進学しています。三田には法整備支援を専門としている教授も在籍されているため、更なる成長を期待しています。

研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性

パブリシティ権(著名人の氏名や肖像等について第三者による商品や広告等での利用を制限する権利)に関心を持っています。現在の日本では人の死後においては適用されないと考えられている権利ですが、誰でも自由に故人の画像等を利用できるとすべきかについては国際的にも議論が分かれています。実際に、2019年の紅白歌合戦での"AIで蘇る美空ひばり"については賛否両論が提起されました。このような結論の出ていない問題について研究会で考えてみる学生がいれば応援したいと思います。

進路

法科大学院に進学する学生のほか、学部からそのまま一般企業へ就職する学生ももちろんいます。就職先の例としてはマスメディアや金融機関などがあります。また、公認会計士試験に挑戦する学生も在籍しており、学部在学中に合格して、卒業を待たずに監査法人で働きはじめた学生もいました。齊藤研究会は開設からまだ4年しか経っていませんが、進路は多岐にわたっています。

齊藤 邦史研究会の魅力  ― 学生の目線から ―

雰囲気や特徴

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個人研究をメインに行っており、その他の授業時間ではディスカッションや演習、発表を行います。ディスカッションでは、事前課題や個人研究に対して学生同士で意見を述べたあと、齊藤先生がオブラートに包んだ指摘ではなく、厳しく的確な指摘をしてくださいます。
法科大学院や司法試験を目指している学生向けに、研究会後、齊藤先生が時間を設けてサブゼミも開催してくださいます。答案の添削やアドバイスをマンツーマンで手厚く指導していただくこともあり、深い学びに繋がっています。

法律に関する研究やディスカッションを行う研究会ですが、所属する学生は司法資格取得を目指して法律を学んでいる学生から、SFCの法律に関する授業を履修して興味を持った学生まで様々です。多様なバックグラウンドを持つ学生が所属しているため、授業内で行う討議での意見交換や質疑応答は新鮮で面白く、大変盛り上がります。また、法律は様々な分野に通ずるため、在学中に公認会計士試験に合格した学生もいました。

授業時間以外では、先生が実務家や研究会のOBOGを呼んでくださり現在の法律実務に関するお話や就職活動のエピソード等について伺う機会があります。また、検察庁や弁護士事務所を訪れるなど、課外活動も充実しています。
研究内容のみならず、課外活動や進路、資格試験等の相談にも手厚く対応してくださる素敵な先生です。

得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間

齊藤研究会に入ったことで、論理的思考力が身につきました。また、自分の主張に対して反対意見を想定しながら理由を考えるようになりました。

また、判例評釈(裁判所で下された判決に対して、要約や批評を記載した論文)を読む力が付いたり、法律が関連する時事問題に敏感になったりしました。たとえば、今話題の招待制の音声SNSアプリケーション"Clubhouse"では、BGMに使用される音楽に関する著作権が問題になっています。そのようなニュースに自然と反応できるようになって、見える世界が変わったと思います。

他にも、塾生が無料で利用できる法律のデータベース「TKCローライブラリー」の検索方法や文献の読み方などを学ぶ機会があります。入学時から一貫して法律を学ぶ法学部と比べると、論文を書くのに時間がかかりますが、不足している基礎や専門的な知識を補いながら執筆できました。
SFCでは、法律に関する研究をしている人は少ないので、その仲間と知り合えたのも入ってよかったと思う瞬間です。

私(森川さん)は、著作権法に関して研究していることから、齊藤先生が著作権法に関する団体を紹介して下さいました。他にも、コロナの影響で実現には至りませんでしたが、学生の研究分野に関連して、少年院訪問を企画してくださったこともあります。法科大学院進学にあたっても親身になって学生に寄り添ってくださいます。
齊藤先生は、『塾』(308号 秋)のコラムにて「人生の転機は、さまざまな偶然が重なって訪れる。学生の転機に立ち会っている身として初心を忘れることなく、真摯に向かい合って行きたい」とおっしゃっていました。だからこそ、私たち学生に様々な機会を積極的に設けてくださっているのだと感じます。

研究会分析シート

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齊藤 邦史 総合政策学部准教授 研究者情報データベース(KRIS)

メッセージ

「SFCで法律を学ぶということ」

SFCで法律を学ぶ動機は人それぞれです。資格試験を目指して勉強を始める人もいれば、ビジネスや創作活動の過程でその重要性に気づく人もいます。いずれにせよ、法律学の修得とは、人間社会の基盤を構成している智慧と制度の体系に練達することです。社会の設計や変革を構想するSFCの学生にとって、法律や契約は必要不可欠な実践の手段なのです。学問によって視界が広がり人生の見通しが開ける、そのような文字どおりの意味におけるブレイクスルーを経験してもらいたいと思います。(齊藤邦史先生)


「卒業する頃には」

SFCの学生は皆、研究会に所属し、そこでの研究成果が卒業条件となります。入学時には学びたいことが定まっていない学生も、既に明確な目標を持っている学生も、4年間のうちに熱中できる何かを見つけることができます。SFCはゴロゴロ転がっている出会いとチャンスを活かして、生涯の糧となる経験ができる場所です。そして、きっと卒業する頃にはSFCで良かったと思えるはずです。
(環境情報学部4年森川愛蓮さん)

取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班