2021.07.14 / 社会安全政策論, サイバー・防犯ボランティア
小笠原和美 研究会
SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。
小笠原和美 研究会の特色
「社会安全政策論研究会」と「サイバー・防犯ボランティア研究会」の2つの研究会を開講しています。
「社会安全政策論研究会」は、学生自らが社会安全に関する政策を掘り下げて個人研究をしています。学生のテーマに合わせた分野におけるゲストスピーカーの講演を受講できるのも魅力の1つです。
「サイバー・防犯ボランティア研究会」は、ボランティアワークショップ活動と個人の研究発表の2軸で活動しています。サイバー空間における子供たちの被害実態を学ぶため、神奈川県警や東京都庁の方にご登壇いただく機会もあります。
「治安」は、警察組織の存在のみで維持できるものではありません。日本社会の中では様々な人や組織の努力や取り組みによって良い治安が維持されています。これを学問として学んでもらうために、警察庁から人事異動という形で教員として赴いています。実は、私はSFCの卒業生で1期生に当たるのですが、仕事を通じて後輩の学生と共に学べる巡り合わせに感謝しています。
ユニークな研究や学生の例
【社会安全政策論】
昨年は、DV(ドメスティックバイオレンス)の加害者更生プログラムの課題をヒアリングを通じて明らかにし、法制度の改革案を提案する学生がいて、実証的に研究を行う姿は特に印象に残っています。
現在は児童虐待を研究テーマに選ぶ学生が比較的多いという印象を持っています。そこで、実際にそのような問題に取り組んでいる社会人の活動に触れたり、ディスカッションしたりする機会をつくるようにしています。 また、社会問題の解決のため自らNPOを立ち上げて取り組むとともに、政府(官邸・与野党)に対する政策提言をする学生もいます。頼もしい限りです。
【サイバー・防犯ボランティア】
アルバイト先の同僚の体験で、友人が自分の顔写真をSNSにアップしたことが原因でストーカー被害に遭ってしまったという事例から、SNS上での個人情報の取り扱いについて、若い女性にフォーカスを当てて研究していた学生が印象に残っています。
また、SNS上でのやり取りから誤解が生じて仲間内でトラブルになったり、不用意に個人情報を提供して直接会いに行ったりなどで犯罪被害に発展してしまうという実例などもワークショップで教えていますが、研究会の中には更に一歩踏み込んで自分の裸の写真などを送ってしまう「自撮り」による性的な被害などについても中高校生に伝えていきたいと話している学生もいます。私の研究テーマが性暴力の予防教育なので、学生自ら関心事項として性犯罪の予防を取り上げてくれたのは嬉しいですね。
研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性
最近では、性的なイジメを受けていた中学生が雪の中で凍死するという痛ましいニュースがありました。SNSを通じて深刻な性的被害があったようです。性的なイジメは女性に限らず男性にとっても極めて深刻な問題で、「イジメ」という名のもとに行われているのは、暴行、強制わいせつ、名誉棄損、リベンジポルノなどの犯罪に当たるものです。目や耳を塞ぎたくなるような話ですが、学生が望めば研究テーマはもちろん、活動テーマとして取り上げていく必要があると思っています。
進路
社会の安全政策の研究から、実際に警察官になった学生がいました。「サイバー・防犯ボランティア」では、防犯という意味で影響力の大きいメディアが果たす役割を認識して、テレビ局に就職した人がいます。他にも2つの研究会において、広告代理店やマスメディア、銀行、商社などに就職した人がいます。昨年度は大学院に進学した卒業生はいませんでした。
小笠原和美 研究会の魅力 ― 学生の目線から ―
「社会安全政策論研究会」に所属されている総合政策学部3年中島千歩さん、「サイバー・防犯ボランティア研究会」に所属されている総合政策学部3年堀内真悠さんに研究会の魅力について伺いました。
雰囲気や特徴
【社会安全政策論】
社会安全政策論について取り扱っている研究会で、治安や社会の安全に関心のある人が多いです。小笠原先生は警察庁から出向されているため、先生ご自身の経験に基づくアドバイスをいただきながら、各々がレベルの高い研究を進めることが出来ています。現在の研究テーマの例としては、児童虐待解決へ向けての他機関連携についての研究、山手線の痴漢を減らすための研究など、多様なテーマの研究が行われています。
この研究会は運営をはじめ学生主体となっています。個人研究では発表を行う機会も多く、生徒間での積極的な議論やフィードバックが行われています。小笠原先生には総括的なご指導をいただいており、学生が研究で煮詰まってしまった際には先生がZoom上で相談にのってくださるなど、先生とも頻繁にコミュニケーションがとれる環境が整っています。
私たちはSFCの理念でもある「問題発見・問題解決」に重きを置いています。中でも、個人研究においては既存の解決策ではない、オリジナリティのある研究内容を大切にしています。
【サイバー・防犯ボランティア】
本研究会では、個人研究とワークショップの2軸で活動しています。
個人研究では学期初めに学生が自分の興味のあることや取り組んでいるプロジェクトについてワークショップ形式で個人発表を行います。その後、学生や先生からフィードバックを頂き、それらをもとに全体でディスカッションを行うこともあります。
卒業プロジェクトに関連する個人研究の例としては、SNSと育児の関係性やフェイクニュースの見分け方などワークショップの内容だけでなく様々なテーマを取り扱っています。
ワークショップでは小中高生に向けてサイバー防犯の意識を高める活動をしています。対象の生徒は100人ほどで、生徒の学年に合わせて内容を準備します。ワークショップの内容としては「SNSの使い方」を中心に取り上げることが多いです。主にLINEやTwitter、Instagramを取り扱っていますが、最近ではガイドライン違反の目立つTikTokやYouTube、トラブルの多いオンラインゲームを盛り込むなど、その時々に沿ったテーマを設定しています。
得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間
【社会安全政策論】
社会安全政策の分野に関して広い視野を手にすることができるのが本研究会ならではの魅力だと思います。その他にも個人研究や発表が多いため、スケジュールを逆算する計画力や、予想外の質問・出来事に対する応用力など様々な力が身に付きます。
小笠原先生の人脈を元に、警察関係など最前線で活動されている方のお話を聞ける機会が頻繁に設けられています。SFCだからこそ多様で最先端なお話に触れられるのは研究会に所属してよかったと思う瞬間です。私(中島さん)はサイバー・防犯ボランティアの研究会にも所属しています。本研究会ではインプットを多く行い、サイバー・防犯ボランティア研究会ではアウトプットを行うことが出来るため両輪的な学習ができます。
【サイバー・防犯ボランティア】
1つ目に、情報モラルやネットリテラシーが身に付きます。SNS上での問題を自分ごととして捉えることは難しいですが、このようなスキルを身につけることは自分自身を守ることにもつながります。
私(堀内さん)はワークショップでの活動を通じて、多くの人にサイバー問題を自分ごととして捉えてもらう方法を模索し、課題について考える癖がつきました。またSNSとの付き合い方に関してアドバイスができるようになりました。
2つ目に、小学生や中学生など幅広い対象に対してプレゼンテーションを行う機会が多いことから、相手の目線に立ったプレゼンテーション能力が身につきます。小学生や中学生に対して、どこまで踏み込んだ内容を話すか、難解な言葉をいかに噛み砕いて説明するかなど、一人ひとりに響くプレゼンテーションスキルを身に付けられた点もよかったと感じます
メッセージ
「どこ(地位)」にいるかではなく、「何」を為すか
2020年春に警察庁から7代目の教授として着任しました。現職の国家公務員で警察官、SFC出身で総合政策学部の1期生でもあります。「警察」にはなるべく近づきたくない!と思われるかもしれませんが(笑)、皆さんが安心して安全に暮らせる社会を作るべく、2つの研究会で学生と共に政策レベルで研究し、活動として実践しています。日本の「治安の良さ」は世界に誇れるものですが、同時に実社会では見えにくい「負の世界」も広がりつつあります。現状の課題をどう捉えて、自分たちが生きる社会をどう変えるべきか、子供たちにどんな未来を残すか、自ら考え、実践したい人を歓迎します。
小笠原和美 総合政策学部教授 教員プロフィール
「唯一無二のキャンパス」
"個" これは私が「 SFCとは?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶ言葉です。様々な人がいるのに一人ひとりが個として際立っており、社会を変えたいという野心を持っている人、問題意識を感じている人、さらにはすでに活動を起こしている人も沢山います。また、先生方もプロフェッショナルな方ばかりなので毎日が刺激だらけです。
個として尊重され高め合う事で、社会の先導者が生まれる素晴らしい環境です。自分の分野を突き詰めるもよし、幅広く学ぶもよし。本当に刺激的な毎日だからこそ、高野豆腐のように沢山吸収して味を出せる人の為のキャンパスだと思います。
(中島千歩さん)
「未来への学び」
SFCでは未来につながる教育を受けられます。学んだことや研究したことをどのように未来に生かせるのか、また、現代の問題とは一体何なのかについてより深く考察できます。またSFCという環境に集まってくる人々の中には、個性豊かで現代に対して生きづらさを感じている人もいます。そんな人たちが集まる環境だからこそ次世代につながる問題発見ができるのだと思います。私に合う学びの環境はSFCであると胸を張って言えます。
(堀内真悠さん)
取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班