2021.12.24/アフリカ研究会・Solution Design in Policies and Environments
國枝美佳 研究会
SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。
國枝美佳 研究会の特色
アフリカ研究会では、アフリカでフィールドワークをして、アフリカから学ぶことを主眼に置いていますが、ウィズコロナ時代では海外渡航や研修が難しいため、国内の課外活動を実施しています。一方で、Solution Design in Policies and Environments(以下、SDPEとする)研究会では、発足当初は私が主体となって研究会の運営をしていましたが、現在は学生主体になりつつあり、学生の方から取り組みたい内容のアジェンダを提案してきます。私はそれに対してコメントをしたり、運営のお手伝いをしたりします。
私は、社会に出る準備として学生自身がリーダーシップを取り、主体的に研究会を運営することは必須だと考えています。そのため、私はガイドやファシリテーションこそするものの、フランス革命の有名な絵で描かれているマリアンヌのように先頭に立って研究会を率いるということはありません。
ユニークな研究や学生の例
アフリカ研究会の2人の学生が印象に残っています。1人目の学生は、夏に北海道でドローンを飛ばし、鹿の生態について調べていました。本来はアフリカで現地の開発に役立てる研究をしたかったそうですが、新型コロナウイルスの影響で渡航が叶わず、代わりに北海道での調査を行っていました。北海道では鹿による農作物の被害が多くありますが、温暖化やハンターの減少など環境の変化により、生息数が激増し、里山の農作物にまで被害が及んでしまうという事象は、アフリカでもみられます。北海道でもアフリカでも、動物と人間の共生が困難であることは共通しているので、このような側面に着目した研究は興味深いと感じました。
2人目の学生は、休学して世界一周をした後この研究会に入ってきました。彼は旅の途中、エチオピアで強盗被害に遭ったときに、現地の人々に助けられるという経験をしたそうです。そして、その方々に恩返しをするために現地で起業し、雇用を創出するという活動をしていました。現在は卒業プロジェクトとして、エチオピア人の職を増やす施策についての論文を執筆しています。現在、エチオピア人が様々な国に出稼ぎに行く中で、奴隷のように働かされている人々が多くいます。論文では彼らの生活環境の改善についてまとめ、将来に役立つような施策を模索しています。
研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性
母子手帳は日本発のツールで、日本の乳幼児死亡率の低下に貢献しています。さらに妊産婦死亡率に関しては、ほぼ0%の状態まで抑えることに成功しています。
妊娠中の女性にとって、母子手帳を持つことは自分自身のエンパワーメントにもなる上、出産の際に発生しうる諸問題の予防にも繋がります。このような日本の成功事例を、発展途上国を含めた外国に広めていくと同時に、母子手帳に含まれているデータを活用した研究を続けていきたいと考えています。
特に識字率の低い国では、患者が自分に必要な医療を理解できないという課題がありますが、保健カードを普及させることでこの課題を解決できます。例えば、アフリカのニジェールでは、母子手帳を持って保健センターに行けば職員から身長体重測定やワクチン接種などの指導や医療を受けることができます。このように、識字率が低い国で必要な医療を人々に提供するためには、母子手帳の普及は不可欠です。識字率の低い国や地域で、人々の健康を改善に寄与できる貢献とは何かを追求していきたいと思います。
日本国内の問題にも注目しています。2013年以降HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが日本で推奨されていないため、接種率が0.6パーセントに留まっています。これにより、日本の若い女性が子宮頸がんや子宮がんを患うリスクが高まっています。20代で健康だった人でも30代で発癌する可能性があり、実際に毎年2,800人ほどの女性が亡くなっています。
私は、日本のHPVワクチン接種率が低いことに非常に危機感を感じています。働き盛りで家族がいる年代の女性が、子宮頸がんや子宮がんといった、予防できる癌で亡くなることは先進国としてあってはなりません。最近になって政府は方針を変え、接種を促すことになりました。しかし、ワクチン接種率を上げるためには、子宮頸がんワクチンが危険でないエビデンスを政策として取り上げる必要があります。さらに、ウイルスは性行為によって感染するので、男性が接種しても安全であるというエビデンスを政策に反映していく必要があります。
進路
以前JICA(国際協力機構)で働いているSFC卒業生数名をゲストスピーカーとして話してもらい、JICAに就職が決まったメンバーがいます。また、丸紅がタンザニアで再生可能エネルギーに関する小さなビジネスを支援している話がきっかけでエネルギー会社に就職したケースがあります。それ以前に、フランスの廃棄物処理の大手企業に就職した卒業生もおり、将来アフリカで活躍する人材が増えることを期待しています。研究会の学生には自分の良さを活かすことができ、彼らの価値を認め、可能性にかけてくれるような会社に就職してほしいと思っています。
進学に関しては、今年のアフリカ研究会のうち3人が大学院に進学します。そのうち2人は東京大学大学院に進学し、GISの活用について、また農業経済について研究します。もう1人はSFCの政策・メディア研究科に進学し、アフリカにおける台湾と中国の関係性について研究します。この学生は在学時の台湾留学が、新型コロナの影響でオンラインになってしまいましたが、大学院では予定していた活動を成し遂げてくれることを期待しています。どのような進路でも、将来的にアフリカに適用できる持続的な技術や知識を身に着けてアフリカや必要とされる場所で活躍して欲しいと願っています。
國枝美佳 研究会の魅力 ― 学生の目線から ―
アフリカ研究会に所属されている環境情報学部4年斎藤優花さん、総合政策学部3年中島彩夏さん、Solution Design in Policies and Environments(SDPE)に所属している総合政策学部3年正山りささん、総合政策学部3年Lek Hongさんに研究会の魅力について伺いました。
雰囲気や特徴
【アフリカ研究会】
アフリカ研究会には国際協力や発展途上国に興味がある学生が多く、アフリカ地域で活躍する方々と交流する機会が豊富です。
アフリカと関連性があれば多岐にわたって研究できるので、アフリカ地域に関心があり主体的に行動できる人であればどなたでも履修可能です。
コロナ以前は毎週アフリカのおいしいお茶やお菓子を食べながら、プロジェクトをベースに学生が主体となって活動していました。今でもアットホームな雰囲気は変わらず、フランクなやりとりが多いですね。
また課外活動が多く、実践しながら知見を深められるのが魅力です。國枝先生が研究会の外で取り組まれているプロジェクトに参画できたり、フィールドワークでアフリカ地域に渡航し貴重な経験を積むことができます。
フィールドワークでは、実際にケニアとルワンダに行きました。スラムにも足を運び、スラムで支援活動を行っている方々の話を伺えました。フィールドワーク後は学会で発表するなど、知見を深めるだけでなく外部に共有することも行っています。
【SDPE】
國枝研究会は、GIGA生向けのSDPEと日本人向けのアフリカ研究会の2つに分かれています。私たちの所属しているSDPEでは、健康や教育の平等や公平を公正に目指す分野横断的な実学を扱っています。GIGA生が多く所属していて、インドネシアやシンガポール、香港などに住んでいた経験を持つ学生もいます。そうした多様なバックグラウンドを持つ学生とのディスカッションは大変面白いです。
10名ほどの小規模な研究会なので、先生との距離も近くアットホームな雰囲気です。実際、先生は学生の興味分野をよく知ってらっしゃるので研究に関連する活動があると紹介してくださったり、私(正山さん)がアルバイトをしている環境問題に取り組むアパレル店にご家族と足を運んでくださいました。
私(正山さん)の具体的な研究内容としては、中国で教育を受けてきたので、日本に来て感じたカルチャーショックやサステイナビリティについてのpodcastを配信することです。他にも、湘南台の寮に暮らす学生に自転車を提供し、スマートウォッチを用いて健康面の変化を調査している学生もいます。
得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間
【アフリカ研究会】
得られるスキルは、アフリカ地域や国際協力に対する見識と、プロジェクトを企画・遂行するための実行力、マネジメント力です。アフリカに事業展開している企業の方や、NPOで国際的に活動する方がゲストスピーカーとして来てくださったときには、さまざまな角度から国際協力を学ぶことができ、国際協力に関わるキャリア形成の見識が深められました。
國枝先生は、私たちのちょっとした変化も見逃さず「大丈夫?」や「何かいいことあった?」など声をかけてくださるため、学生一人ひとりをしっかり見てくださっていることを日々実感しています。また何か悩み事があればいつでも相談に乗ってくださいます。
国際的なキャリアを志望している私(斎藤さん)は、先生を通じてアフリカ地域や国際機関で活躍する方々とコネクションを持ち、その方々のキャリアについてより近い距離で学べたことで、国際的に働くことへの視野を広げることができました。また普段なかなか連携をとることができない、アフリカに関わりのある様々なコミュニティと協働できたことはためになった瞬間だと感じます。
【SDPE】
研究会を通して、研究とは何か、またそのプロセスを学ぶことができました。調査研究を実施するにあたって、倫理的考慮を確保しているかを確認するため、研究倫理委員会の審査を受けることについても指導してくださいました。長年アフリカの健康問題について研究されてる國枝先生のもとで、コロナ禍の渦中でありながらも実践的に研究できたのはよかったです。
もともと環境問題に関心があった私(正山さん)は、多様な社会問題に触れられるSDPEに魅力を感じてこの研究会に参加しました。小規模の研究会なので一人ひとりの意見が尊重され、先生がいつでもサポートしてくださる環境の中で学生の行動力も育まれます。
メッセージ
「早く行きたければひとりで行け。 遠くまで行きたければみんなで行け。」
アフリカのことわざです。現地で活動していると、人々のスケールの大きさとバイタリティに圧倒されます。一方、個性より調和が重視されがちな日本では、とかく他者との比較の中で受動的に生きる人が多いように感じます。受験生や就活生には、他者と比較せず、自分らしく、大志を持って欲しいと願っています。『我こそ開拓者』という人こそ、周囲と協力し合って、線的、面的かつ持続的な活動を一緒に展開していきましょう。
國枝美佳 総合政策学部専任講師 教員プロフィール
自分らしくアフリカと向き合う
アフリカ研究会では、様々なバックグラウンドを持った個性あふれる仲間と共に、それぞれが個性を活かしながら楽しく学びを深めています。プロジェクト活動が多い学期もありますが、アフリカに興味があり主体的に行動できる人なら誰でも大歓迎です。また、開講したばかりの研究会ということもあり、一から新しいプロジェクトの立ち上げに関われたり、学生のやりたいことに合わせて研究会の活動内容を決めたりできるため、学びたいことをとことん学べる環境があります。皆さんもぜひ、アフリカをフィールドに学びたいこと、興味あるものを一緒に追求していきましょう。(斎藤優花さん、中島彩夏さん)
Join us in creating impact-driven solutions
If you are keen on starting a project, getting your hands dirty in research, experimentation, reaching out to collaborators, and participating in conferences to share your ideas on a variety of topics (health equity, behavioral science, data science, solution design in general, etc.) consider our seminar SDPE! Here we value initiative, being impact-driven, inclusiveness and mutual support. Be the change you want to see!(Lek Hongさん)
取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班