新型コロナウイルス感染症の報道分析から見えること
片山 桃子 Momoko Katayama
学部:総合政策学部3年
自由な学びの場を求めて
不登校から高校を中退し、不安を抱えながら大学進学を目指していました。そんな中で興味を抱いたのは、自由な学びができそうなSFCのカリキュラム。独自の研究を進めている人、スポーツに打ち込んでいる人、起業している人など、多彩なSFC生の存在を知りました。学問分野を超えた研究ができそうだと思い、自分も挑戦してみたいという意欲が強まっていきました。
入学直後は、ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大している時期。まだ研究分野は絞りきれていませんでした。クラスの担任や副担任に相談する機会に医療の報道に興味があることを話したところ、現在所属する矢作尚久研究会を紹介してもらいました。
新型コロナウイルス関連報道を追跡
矢作先生からのアドバイスは、1年半ぐらいの期間を設定してコロナ関連報道を追跡すること。そのデータを分析すれば、何か面白い傾向が見えてくるかもしれないと思いました。研究会では博士課程の先輩にも助言をいただき、データの扱い方を学びながら追跡を開始しました。
研究手法は「自然言語処理による定型句の分析」です。新聞記事などを自然言語処理にかけ、統計確率モデルで定型的な表現を抜き出します。しばらく続けているうちに、日々なんとなく聞き流している報道にも一定の特徴や傾向があることわかってきました。
内閣総理大臣、厚生労働大臣、医師会など、発言者によってメッセージの内容ははっきり異なっています。内閣総理大臣は「安心安全」などの大まかな方針や姿勢を示す表現が多く、厚生労働大臣は具体的な政策内容を含んでいるのがポイント。医師会は医療現場の逼迫度について語り、感染者の増減によって表現が細かく変化していることもわかりました。
誰がどんな目的で発言しているのか
このような研究を続ける動機のひとつには、特定の事象に対する「意味付け」のプロセスを体系的に理解したいという思いがあります。報道のフレームを把握していくことで、メッセージの意図や対象との関係が築かれるメカニズムも理解できます。新型コロナウイルス感染症の事例では、情報伝達を軸にしながら国民の行動や意識を変容させようという表現の工夫が多く見られました。このような研究は異なったテーマや出来事についても応用ができるので、将来の政策づくりやコミュニケーションに役立つことを願って取り組みを進めています。
メッセージの意図から情報の構造を読み取る
定型句を追跡したデータからは、他にもさまざまな情報が読みとれます。新聞社によって表現の傾向が異なるのもその一例。さらに海外メディアと比較をすれば、国ごとの社会文化的な違いを知ることができるかもしれません。矢作尚久研究会のほかに所属している小熊英二研究会では、そのようなメディア分析につながる視点も学んで研究に活かしています。
また今回の研究を踏まえ、マスメディアで語られる言葉が他のコミュニケーションの場に与える影響についても興味が湧きました。今後は選挙や環境問題などのテーマごとに定型句を追跡し、さまざまなコミュニケーションについて分析できる手法を確立したいと考えています。未来の研究材料となるように、最善の形でデータを残すのも目標のひとつです。
異分野が自分の中でつながる喜び
必修科目が少ないSFCには、そもそも文系と理系の区別がありません。研究会以外でも多彩な分野の科目を履修したことで、自分がやりたいことや得意なことが少しずつクリアに見えてきました。さまざまな人々との交流からチャンスが生まれるSFCで、自分のビジョンやミッションなどの軸を打ち立てる重要性も実感しています。
所属している2つの研究会は、それぞれにアプローチや着眼点が異なります。双方からのフィードバックによって、自分の研究がより細かくポジショニングできるようになりました。認知心理学とメディアのように、異なった分野がつながるのもSFCらしい面白さです。
SFCの研究助成制度である「教育奨励基金『学習・研究奨励金』」にも採択していただきました。自分ができることを掘り下げて、あらゆる人が幸せに生きられる社会の実現に寄与したいと思っています。