増井俊之環境情報学部教授が、日本ソフトウェア科学会2020年度基礎研究賞を受賞し、9月3日に行われた「日本ソフトウェア科学会第38回大会」の特別講演に登壇しました。
日本ソフトウェア科学会は、計算機ソフトウェアに係わる科学・技術の研究を盛んにし、またその普及をはかり、関係諸部面とも協力して学術文化の向上発展に寄与することを目的として活動しています。
基礎研究賞は、ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げた研究者に対して、基礎研究賞を授与しその功績を称える制度として2008年度に開設されました。
増井教授は長年にわたりユーザインタフェースシステムの基本技術の研究を行っており、社会で広く利用されている多くの研究成果と、本分野における発展への寄与、また学会の運営や執筆活動など、顕著な業績と貢献が評価され、今回の受賞に至りました。
増井俊之教授のコメント
私は現在慶應SFCで先進的なユーザインタフェースの研究を行っています。今回の私の授賞理由は、長年にわたる「ユニバーサルなユーザインタフェース」の研究が評価されたものです。私はSFCに来る以前から長年にわたってコンピュータのユーザインタフェースの研究を行ってきました。ソニーコンピュータサイエンス勤務時に開発した予測型日本語入力システム「POBox」や、Apple Inc.勤務時に開発した「フリック入力」は現在多くの携帯電話やスマートフォンで利用されています。また、優れたユーザインタフェースを実現するためのビジュアライゼーションシステムやプログラミングテクニックなどの研究も行なっており、SFCの授業や研究会で指導を行っています。
私がユーザインタフェースの研究を開始したのは30年以上前のことです。コンピュータサイエンスの一部としてユーザインタフェースの研究は現在は重要なものと考えられていますが、30年前はあまりそういう意識は共有されていませんでした。Xerox PARCなどで先進的な研究が行なわれてきた結果、Apple社のMacintoshのような、誰もが使えるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を搭載したパーソナルコンピュータが広まりつつありましたが、将来はユーザインタフェースの研究がさらに重要になると考え、ユーザインタフェースの研究者が議論を行なうためのワークショップ「WISS」(Workshop on Interactive Systems and Software)を1993年に設立しました。WISSはソフトウェア科学会のワークショップとして毎年開催されており、ユーザインタフェース研究で最もアクティブな学会として知られています。
ひと昔前はコンピュータは専門家が使うものでしたから、ユーザインタフェースも専門家向けのものがあれば十分だったかもしれません。しかし現在のコンピュータは誰もが利用するものになっており、将来はむしろ弱者を助けるという側面の方が重要になってくると思われます。かな漢字変換や予測入力といった日本語入力システムは、漢字を覚えるのが苦手な人でも手が不自由な人でも簡単に文章を書けるようにしたものだと言えます。また様々な検索システムは、記憶するのが苦手な人間を助けるシステムだと考えることもできるでしょう。このように、将来のコンピュータは人間を助けることが大きな用途となり、そのためのユーザインタフェースが非常に重要になってくると考えられます。
誰もが使えるコンピュータのインタフェースのことを「ユニバーサルなユーザインタフェース」と言います。私は、長年にわたってこういう方向の研究を行ってきたことが評価されて賞をいただくことができました。受賞に感謝しつつ、今後もさらに研究開発に邁進していきたいと考えています。
日本ソフトウェア科学会基礎研究賞
日本ソフトウェア科学会第38回全国大会
増井俊之 環境情報学部教授 プロフィール
発信元:湘南藤沢事務室 総務担当